自分の命と引き換えに巣守るアブラムシ幼虫の「白い体液」。

産業技術総合研究所は、アブラムシが植物組織に作る虫こぶ(巣)が敵に壊されたときに、兵隊幼虫が自ら大量の凝固体液を放出して穴をふさぐ「自己犠牲的な虫こぶ修復」の分子機構を解明した。
植物の害虫であるアブラムシは全世界で5,000種ほど存在するが、そのうちおよそ80種は、ミツバチ、アリ、シロアリのように社会を形成して生活している。このような社会性アブラムシでは、集団(コロニー)の一部を構成する兵隊幼虫が、コロニー防衛や巣のメンテナンスといった社会行動に従事して、仲間の生存や繁殖を助ける。
社会性アブラムシの多くは、植物組織を肥大、変形、成長させ、特殊な構造をした虫こぶ(巣)を形成する。虫こぶは外敵からの侵入を防ぐとともに、植物の師管液を吸って生活するアブラムシの良質な食物供給源となっている。
研究の対象となったアブラムシの兵隊幼虫の体液には特殊化した血球細胞が充満していて、放出されると細胞が崩壊して一連の化学反応が始まり、出された脂質成分が速やかに固化し、続いて体液のメラニン化とタンパク質の架橋が起こり、褐色の強固な凝固物を形成する。つまり兵隊幼虫は、体表の傷をふさぐ「かさぶた」の形成機構を著しく増強するのだが、その代わり幼虫は体液を出すと脱皮できなくなくなり、ミイラのようになって死ぬことはわかっていたが、この凝固活性が極めて高い体液にどのような物質が含まれていて、なぜ固まるのかといった分子レベルの仕組みは不明であった。今回の研究によって、植物組織からできた「巣の壁に生じた傷を自己が犠牲になって修復する」というアブラムシの極めて特異で高度な社会行動の仕組みが明らかになった。