世界の農業先進国の歴史と現在 スイス(2)中途半端な有機農業は許さない。
有機農業の実現には手間とコストがかかるため、農場としての生産性は下がる。しかし、スイスでは、この有機農業を実践する農場が増加している。2011年の調査では、世界の農地面積のうち有機農業がおこなわれているのはわずか0.86%しかなかったが、スイスの農地ではすでに12%で有機農業が行われている。
手間とコストのかかる有機農業の増加には、有機農業で作られた農産品を高付加価値化するにはスイス政府による BUDラベル制度が重要な役割を果たしている。スイスの有機農場の90%が、スイス政府に認証された“バイオ農場”であり、800以上の食品企業が、BUD基準の食品を生産する契約を結んでいる。
スイス政府の求める有機農場基準は、有機農業の普及している欧州でも最も厳しいことで知られる。自らの農場を有機農業に転換することを決めた農家は、約2年をかけて、農場の有機化に取り組まなくてはならない。一旦有機農業を選択したら、すべての化学肥料・農薬の使用は禁じられる。中でも、一番難しい条件が、自らの所有する農地全部を有機化しなければならない。一部の有機化した畑からとれた人参だけを有機野菜として販売することは認められない。酪農家の場合には、動物に対してホルモン注射や抗生物質の投与などが禁止されるのは当然で、動物に与えるすべての飼料を、同じ農場内で自ら有機生産しなければならない。
これらの要求をすべて満たす有機農場となったら、スイスが認定する認証機関の認証試験を受け、これに合格して初めて、スイスの有機農場を名乗ることができる、その生産品にはBUDラベルを添付することができる。加工食品の場合は、加工を行った企業がラベルを添付する。
このBUDラベルには3種類ある。最も価値が高いのは、“BIO-SUISSE”(ビオスイス)と呼ばれるラベルで、原料すべてが有機製品で、かつ、その90%以上がスイス産の原料で生産されているものを示す。「有機栽培」であることと、「メイドインスイス」であることの二つの価値を併せ持つ。これに対し、スイスでは原料が調達出来ないものに限っては近隣欧州から、そして、欧州内では調達できないものに限って、欧州以外の地域から原料を調達することが許されており、10%以上スイス国外の原料を含む製品には、“BIO-BUD”ラベルが用意される。ただし、輸入される原料も有機栽培であることが証明されていなければならないので、その原料調達にはコストがかかる。
この“BUD”ラベル制度には、Budコンバージョンと呼ばれる、有機農業に挑戦中の移行期間用ラベルも準備されている。