高知大学発のベンチャーがスズメバチの活動を抑えるスプレーを製品化。

スズメバチは、養蜂農家にとってはとくに迷惑な存在だ。獲物となる昆虫が減ってくる夏の終わり頃から、ミツバチのコロニーを襲い、餌にするからである。非常に好戦的かつ攻撃的な性格で、巣の防御や樹液を分泌するクヌギなどの餌場付近では、他の生物を攻撃することも多い。スズメバチに襲われて死亡する人は年間20人前後、多い年では80人近いといわれ、熊の0~1人、マムシやハブの5人前後と比較してもその被害は深刻だ。
一方、クヌギなどの木々から出る樹液に昆虫が集まることはよく知られているが、スズメバチも樹液を餌にする。オオスズメバチがクヌギの木肌をかじると樹液が滲出し、そこへ働き蜂が集まり、口移しで樹液の糖分を受け取り巣へ運ぶという。夜になり、スズメバチが巣へ帰ると、ボクトウガの幼虫が現れ、スズメバチが開けた穴に侵入し樹液滲出させる。ボクトウガの幼虫は、その樹液とボクトウガの幼虫が出す匂いに誘われてやって来る昆虫を捕食する。しかしスズメバチが再びその樹液に集まろうとしても、ボクトウガの幼虫が放出する匂いのため、近づくことができないことが分かった。
このことから、クヌギの樹液にはスズメバチが好む樹液と嫌う樹液があると考え、高知大学の研究チームが調査を進めると、それが「2-フェニルエタノール」という成分であることを探り出し、その近縁の「フェニルメタノール」にも同様の活性があることが分かった。フェニルメタノールは、杏仁豆腐などにアーモンドの香りを付けるための食品添加物としても使用されている。スズメバチにフェニルメタノールをかけてみると、すごい勢いで嫌がることを確認した。
そこで研究チームの金教授は、高知大学発ベンチャー「株式会社KINP(キンプ)」を設立し、危険なスズメバチを殺さず追い払うスプレー「スズメバチサラバ」を製品化。今年4月から、販売開始した。
最大有効噴霧距離は4m程度。シュッとひと吹きしてスズメバチの攻撃本能を消失させ、その間に避難することを目的としている。食品添加物が主成分なので農薬登録の必要もなく、人はもちろんミツバチにも影響は少ない。さらにアシナガバチ類を含むスズメバチ科ハチ類すべてに忌避行動が見られるという。草むらなど、作業する場所に散布して、スズメバチが飛び出てくれば巣があることが事前に分かり、安全対策もとれる。万一襲われた場合、刺された人や群がってくるスズメバチに散布することで、集中的な二次攻撃も防げる。噴霧する量にもよるが、一時的に攻撃性を失うのは4~5分間。