iPS細胞にも農作物にも利用できるゲノム編集新手法を国産で開発。
大阪大学などの研究グループは、医療や農畜水産物など広い分野で応用が期待されているゲノム編集の新たな手法を開発した。新手法は「クリスパー・キャス3」と名付けられ、現在世界中で利用されている「クリスパー・キャス9」に比べ、より多くの塩基配列を編集できる。
研究グループによると、「クリスパー・キャス3」は「クリスパー・キャス9」より数百多い最大数万の塩基配列の編集も可能で、ウイルスなども編集しやすい。また狙った塩基配列以外を編集してしまう「オフターゲット」のリスクも少ないという。
グループはまた、京都大学iPS細胞研究所とデュシャンヌ型筋ジストロフィー患者の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った共同研究で、この病気に関係する塩基配列を新手法で編集し、修復することに成功した。
ゲノム編集は、遺伝子本体であるDNAの塩基配列を高い精度で書き換え、細胞内で塩基配列を切断する特殊な酵素を使うなどして特定の遺伝子部分が働かなくなるようにしたり、新たな配列を組み込んで新しい機能を持たせることができる。リボ核酸(RNA)と特殊な酵素の複合体を使う「クリスパー・キャス9」という手法が2012年に開発されたが、安価で簡便なことから農畜水産物の品種改良への利用が一気に進んだ。また病気治療を目指した医療分野での研究も国内外で盛んに行われるようになった。
「クリスパー・キャス9」は、アメリカ主導で開発されたことから、特許権利関係が複雑で日本での利用が制限される懸念があり、簡便で安価な国産の手法の開発が待たれていた。今回開発された新手法は、安全性の高い日本発ゲノム編集基盤ツールとして創薬や遺伝子治療、農畜水産物への利用などさまざまな分野への活用が期待される。